一人語り その2

※一人語りその1の続きです。その1を読んでからお読みください。
よって、折りたたみます。 サムライトルーパーの二次創作を書き、ビデオやグッズを集めている間、私は何度も、二次元と自分を隔てるテレビ画面を恨んだ。自分が死んだら、二次元に行けて、トルーパーに会えるだろうかと考えたことも何度もある。

中学高校でつらい時は、トルーパーの下敷きやラミネートカードを慰めにしていた。心の中で話しかけると、頭の中でトルーパーの声がした。すぐ傍で自分を抱き締めてくれる、見えない彼らの腕の温もりを感じていた。

毎年、自分の誕生日になると、「私を迎えに来て」とサムライトルーパーに祈った。いつかサムライトルーパーが次元を超えて、迎えに来てくれる日が来るのではないかと思っていた。今年も迎えが来なかったと、何度ガッカリしたことだろう。

結局、サムライトルーパーの二次創作を自分が満足するだけ書き終えたのと、大学に入学するのは同時だった。

ずっと奇人扱いされていた私が、大学生になって「変わり者の私」がそのまま受け入れられる世界に入った。生まれて初めて、「同じ学年の仲良しグループ」というものの中に入ることが出来た。

その辺りから、少しずつサムライトルーパーの声が頭の中から聞こえなくなり始めた。
彼らの温もりを失うのが嫌で、必死に声を取り戻そうとする私に、彼らは「君が幸せなら、無理に俺(僕)達の声を聴こうとしなくていいんだよ。俺(僕)らの声が聴こえなくたって、いつだって傍にいるよ」と言ってくれた。もう薄れかけた声だったけど、確かにそんな気がした。

私は三次元に、伸くんと似た人がいないか探そうと思った。…似た人はいたけれど、告白して振られた。
それでも嬉しかった。伸くんにはどれだけ好きでも告白できないから、好きだと思った人に告白できるという、当たり前のことが嬉しかった。

いつか、誰かと結婚して、男の子を産んだら、伸と名づけよう。そして、伸くんのような心優しい少年に育てよう。そうしたら、伸くんと三次元で会える。
三次元で伸くんと会える方法として、漠然とした想像が、決意に変わったのはその頃だった。

CLAMPさんの漫画で「片想いでもいい。二人分好きになれば両思いだ」という言葉を知ったのもその頃だったと思う。
彼らの声が聞こえ、温もりを身近に感じていた自分を思い出して、「自分はきっと二人分好きだ。じゃあ、私は伸くんと両思いだ」と思った。とても救われた気分だった。

次に出会ったのは、高橋なのさんの『そしてキミに会いに行く』というアニパロコミックだった。

漫画の内容はこんな感じ。
二次元キャラのシャア・アズナブルと、三次元の人間である庸子が偶然、出会う。惹かれ合う二人。しかし、それは次元の境目を危うくする禁忌だった。
二人はそれぞれの道を生きていくために、それぞれの人生を、それぞれの世界を大切にするために、前向きな気持ちで別れ、元の次元に戻っていく。
そして、別れれば、その記憶は一晩で消える。思い出すら残さない、それでも一生懸命だった恋の物語。

この漫画を読んで、この物語のように、実は記憶にないだけで、伸くんと出会って私が恋に落ちた、未知の時間があったんじゃないかと私は信じた。
だって、こんなに好きなんだもの。きっとどこかでサムライトルーパーと私は出会って、恋に落ちているんだ。私の記憶にない、心だけが覚えているどこかで。

大学から大学院に行くことを決めた時、インターネットを本格的に私は始めた。
同じくサムライトルーパーファンが、ネットの世界にたくさんいることを知って、私はとても嬉しかった。
だけど、大手のサイトはほとんどがBLカップリングばかりで、私のように、キャラそのものに恋をしている人は、少なくとも表向き、見つからなかった。

最初はBLでも、サムライトルーパーの小説が読めるだけで楽しかった。でも、だんだん嫉妬するようになって来た。大好きな伸くんが、例え同じトルーパーの仲間でも、他の誰かと愛し合っている姿は見たくないと思った。とうとうほとんどのBLサイトに行けなくなった。

その頃、私は初めての恋人で、今の夫となる人と出会う。夫は初めて私のことを好きだと言ってくれた男性だった。伸くんには似ていない。むしろ、外見は秀くんに似ているように感じた。ちなみに、今になってみると、外見はともかく、性格は当麻くんに近い気がする。『天空伝』辺りの自己チューなところとか(苦笑)

彼とお付き合いを始めた時、どうしても伸くんとは結ばれず、秀くんと結ばれてしまう私の小説は、この未来を予兆していたのかと思った。
私は結婚して、彼の元に嫁いだ。お嫁入り道具はサムライトルーパーのDVDBOXだった。

そして、私はネットでドリーム小説というジャンルに出会う。好きなキャラに自分の名前を呼んでもらえる、恋に落ちる小説が読める。これはずっと大学ノートで私が書いていたものと同じだと感じた。
サムライトルーパードリーム小説を扱っているサイトも見つかって、とても嬉しかった。

同じ頃、私は長男を出産した。子どもの性別の分かる前から、ずっとお腹の子どもを「伸」と呼んでいた。だけど、夫は息子に「伸」と名付けることを断固として許してくれなかった。
初めての出産で疲れ切っていた私に、自分の意志を通すことは出来なかった。伸くんをこの手で育てるという、私の夢は叶わないまま、終わった。
今、小学生となったやんちゃな息子は、性格も容姿も全く伸くんに似ていない。もしかすると、伸と名付けなくて正解だったかもしれない。名付けていたら、きっと息子に期待しすぎて、現実の息子とのギャップに苦しんだだろうし、息子も苦しめただろうから。

ドリーム小説のサイトは移り変わりが激しい。お気に入りのサイトも更新が止まってしまったり、閉鎖してしまったりする。自分がいつでも読めて、いつまでも楽しめる話が書きたくて、私は自分でサムライトルーパードリーム小説を書き始めた。

私の書くドリーム小説は、どれも恋が実るまでのストーリーだ。両思いになってからの小説を私は書けない。想像ができない。
最初は伸くんと両思いになる話を書くのも難しかった。やはり、伸くんに自分が好きになってもらえるとは思えなかったからだ。
それでも、試行錯誤を繰り返しているうちに、少しずつ、伸くんとヒロインが両思いになるドリーム小説も書けるようになって来た。

自分の好みに作ったアバターを育てて、恋人同士になるゲームで、アバターを伸と名付けて育てたりもした。初めてレベルアップしたアバターに「好きだよ」と言われた時、嬉しくて号泣した。その時は、本当に幸せだった。

でも、波が打ち返すように、虚しさが時折、襲って来ることは変わらなかった。
伸くんは二次元の向こうにいる。私がどれだけドリーム小説を書こうと、アバターに告白されようと、本物の伸くんに逢うどころか、思いを伝えることすら出来ないのだと。
そう言う時は、せめて、眠りの中で逢いたいと願うのだけれど、残念ながら、まれに見る、トルーパーの夢の中でも、私の隣に伸くんはいないのだ。

サムライトルーパーのオンリーの同人誌即売会にもサークル参加した。でも、私の書くオールキャラの健全小説や、友人にプログラミングをしてもらって作ったドリーム小説は全く売れなかった。

イベントに参加する以上は、きちんと売れる物を作りたい。そう思った。よし、サムライトルーパーやおいを書いてやる。ずっと自分に禁じていた「トルーパーでやおいは書かない、想像もしない」という中学生の時からの禁じ手を破り、私はトルーパーのやおいに手を出した。私の書くやおい本は、超弱小サークルながら、出した作品は着実に完売するようになっていった。

この頃から、私にとって伸くんは「憧れの少年」であると同時に、「自分の創作物」として、私の中に同化していったのかもしれない。
今は耳を澄ませなくても、トルーパーの小説を書き始めれば、自分の中でサムライトルーパーの五人は生き生きと蘇って来る。

私は厳密なストーリー構成をせず、大体のイメージが出来ると、気の向くままに書き始めるタイプだ。
時々、展開に詰まって、ピタッと手が止まると、「この場合どうする?」と頭の中で、彼らに相談する。
「知るか!」と言われたり、呆れたような無言で返されたり…。でも、自然に会話している。

私に25年間の軌跡を尋ねて下さった方に、「その方は既に神無月様の一部、もしくは神無月様の人生の大切な一部分になられているのではないでしょうか。」と言っていただいて気付いた。

確かに、私にとって、サムライトルーパーは、伸くんは、もう私の一部分になってしまっている。私の中で彼らは当たり前のように生きている。永遠の少年のままで。そして、私の中の永遠の少女が彼らと恋をしている。私が死ぬまで、この恋…二人分好きな、すれ違い片想いは続くだろう。
それは誰にも汚せない。踏み込めない。私の、私だけの神殿。
こんなに好きになったキャラクター達は他にいないし、これからも出来ないだろう。そして、私は死ぬまで伸くんとサムライトルーパーを愛するだろう。

「毛利伸の嫁」とは私は名乗れない。伸くんとお付き合いしている自分が想像できないのだ。「大好きだよ」と互いに告げあって、微笑みあう。そこで私のストーリーはいつもフェイドアウトする。

大好きだけど、どれだけ待っても、伸くんは私を迎えに来ない、共に人生を歩めないという、虚しさの波もまた、私の一部なのだ。

いつか、私もネットで時々見かける人のように、「毛利伸の嫁」と名乗れる日が来るだろうか。

今の私の願いは、私が死んだら、私の戒名に「信」(伸くんの持つ心)の文字を入れて欲しいということ。それだけだ。

<もうちょっと続きます。>