香港版おっさんずラブ「大叔的愛」感想

2022年3月にmixiで書いていた、香港版おっさんずラブ、「大叔的愛」の感想を載せます。

全15話と充実していて、ストーリーはほぼ日本版をなぞりながら、より深く描いたりして、キャラクターも一人一人、しっかり掘り下げていて、日本版おっさんずラブへの愛やリスペクトも感じられて、大変、面白く見せていただきました。
OPが逃げ恥のドラマのようにキャスト全員でダンスしていたり、EDでNGシーンが流れたり、春田や牧に当たる役者さんからのサービスシーンがあったりして、良かったです。

興味深かったのが、「夫の不倫」に対する風当たりが、香港版はほとんどなかったことです。
蝶子さんに当たる、フランチェスカも、夫である部長に当たる、KKが他に好きな人ができて、それが春田に当たる、阿田だと分かっても、阿田を日本版みたいに「あなたのせいで結婚生活が壊れたのよ!」とはなじりません。
なんと武川さんに当たる、ダレンは妻子がいて、若牧くんならぬ阿牧と不倫して、妻子がいることを知った阿牧が彼のもとを去るのですが、ダレンは阿牧と別れる前に、奥さんに離婚を切り出していて、「そのほう(離婚)がお前達のためなんだ」と言っており、奥さんもその決定に逆らいません。
武川さんが妻子がいるのに牧と不倫して、おまけに妻子を捨てて、不倫相手の牧のほうに行こうとする設定だったら、日本版の武川さん、めっちゃ悪く言われてたと思います(滝汗)
イギリス統治時代が長かったから、国王が妻と離婚して不倫相手と結婚するために作った英国国教会の影響がいまだに残っているのか、中国は家長制度が強いようなので、男性の不倫は咎められないのかは謎です。女性の不倫も同じかどうかも分かりません。

次に興味深いのが、香港版では同性愛への偏見がほぼないところでした。春田に当たる阿田は、両親が海外移住して、結婚して、現在、妊娠中のお姉さんに自宅に通ってもらって、家事一切をやってもらっているという設定でした。そのお姉さんが妊娠後期に入って、通うのがつらくなったので、来てくれなくて、他に家事をしてくれる人が必要になったというのが、ルームシェアのきっかけです。お姉さんは牧に当たる阿牧に「誰か阿田にいい人ができないかしら? あなたでもいいわ」とあっさり言っていますし、阿牧の家族も阿牧がゲイであることを知っていて認めています。面白かったのが、そらちゃんに当たる人が、妹ではなく、姉だったということです。妹が兄を説教するというのは年長者を敬う中国では避けられたのでしょうか。

あと、戸建ての家が全くないのにも驚きました。天空不動産ならぬ、Q不動産が取り扱うのは、全部、マンション物件です。マンションのドアを開ける手前に門扉のようなシャッターが着いているのが面白かったし、香港の不動産事情もいろいろ分かりました。「ナミヤ雑貨店の奇蹟」の香港版も見ましたが、雑貨店のような一軒家でも、やっぱりドアの前に門扉のようなシャッターがついていました。

それと、香港版では、全員が(日本版で優柔不断な春田ですら)、自分の意志をその時々で、きちんと伝えていることも興味深かったです。
キャットファイトの最後で日本版の春田は「俺のために喧嘩しないでくださーい!」と叫びますが、香港版の阿田は「俺の好みはどうなる!? 俺は巨乳の女性が好きなんだー!」と二人の顔を一人ずつしっかり見ながら、叫びます。阿牧が別れを切り出した時も「俺は別れたくない!」とハッキリ言います。香港版の阿牧の別れる理由も、日本版の牧の場合、『自分と一緒にいたら、春田に家庭を持たせてあげられない』という、伝統的家庭観に日本版の牧が縛られていることが出ていますが、香港版では「他の人のことは気にしません。あなたと一緒にいれば俺は楽しいんです」って阿田に向かって言っていたのに、阿田が子どもが大好きで、阿田の両親も阿田に孫ができることを望んでいると知って、別れを決意してしまいました。香港版の阿田は阿牧に別れを切り出された時、ハッキリ「別れたくない!」って言ったし、阿牧を出て行かせまいと、自分の寝室には行かず、リビングのソファで寝て、見張っていました。でも、阿牧は阿田がうたた寝している間に出て行ってしまって、「今まで俺がなにをやっても怒らなかった阿牧が俺を見放した」という阿田のモノローグが出ました。
ちなみに、阿田は一年間、KKと過ごしても、仕事力はアップしても、家事力は上達しません。阿牧が「(阿田の面倒を見てあげることが)俺の仕事です」と最後まで言い続けていて、そこはちょっとどうかなあと思いました。
武川さんに当たるダレンも、阿田と阿牧が付き合っていると分かった後、部長に当たるKKに「好きな人がいて(阿牧のことです)、その人が戻るのをずっと待っています。諦めることはできません。気持ちが納得できないんです」と言い切っています。

香港版のキャストはモブキャラがいませんでした。営業所は、所長のKK(日本版の部長)、古株のダレン(日本版の武川さん)、阿田(日本版の春田)、営業所のトップセールスマンのルイス(日本版のマロ)、紅一点で事務職のカルメン(日本版の舞香さん)、そして、転職してきたエリートの阿牧(日本版の牧)だけです。その他に登場するのは、KKの奥さんのフランチェスカ(日本版の蝶子さん)、香港版オリキャラフランチェスカの友人で一緒に仕事しているという設定の占い師の女性(フランチェスカは占い師の女性と組んで、水晶の販売をしているという設定です)、そして、ワンダフルという料理店を経営している平兄(日本版の鉄平兄)と、ワンダフルで働く彼の妹のジーチン(日本版のちずちゃん)は、阿田の幼馴染で同級生という設定です。

KKは日本版の部長より部下思いで、部下を良く見ています。「ルイスはいつもトップセールスを稼ぐけれど、その月のノルマを達成すると、サボる癖がある。阿田は一つ一つの案件全てから手を抜かず、決して努力を怠らない。全然成績は上がらないけれど、いつか彼の努力が報われる日が来る」と阿田を評価しています。
また、日本版の部長と違って、KKは奥さんのフランチェスカを阿田を好きであることとは別に、大事にしています。「離婚して、家を出る」と言ったフランチェスカのために、引っ越し先の担当を阿田から替わったルイスにアドバイスして、「でも、この物件では予算と合いません」と答えるルイスに、「フランチェスカには予算通りの値段を告げてくれ。差額は俺が払う」と言います。フランチェスカも物件をルイスから紹介されて、「ここを紹介したのは主人でしょ。すぐに引っ越すわ」とKKが自分を想って、自分が引っ越したいイメージピッタリの物件を見つけてくれたことをお見通しで、香港版の部長と蝶子さんは、ちゃんとお互いを理解し、思い合っているんです。そこは春田のことしか頭にない日本版の部長よりいいなと思いました。

カルメンは食いしん坊で、仕事中も常に何か食べていて、お笑いが大好きで、野次馬根性丸出しで、噂話好きという設定で、お笑いピン芸人を目指していて、面白いネタを思いつくと録音機にすぐ録音する平兄とお互いに次第に惹かれあっていきます。平兄の独特の料理もカルメンだけはいつも「美味しい!」と食べていて、全然ウケないお笑いも「面白い!」と爆笑していて、日本版では描かれなかった、舞香さんと鉄平兄のお付き合いに至る経緯がとても丁寧に描かれます。

成績は優秀だけど、チャラ男で女の子をとっかえひっかえだったマロに当たるルイスも、初めて本気でちずちゃんに当たるジーチンを好きになって、でも、ジーチンは阿田が好きなことが丸わかりで、ルイスはとても苦しんで、担当になったフランチェスカに、「なぜ、お互いに思い合っているのに、離婚するのですか?」と問いかけて、「離れても愛することはできる」と答えられて、ジーチンを愛するがゆえに、阿田を好きなジーチンから身を引く決意を固めて、「僕達、友達でいたほうがいいのかもしれない」と伝えるという、『おおっ、深い~!』と感動する展開になっています。しかも、ルイスは平兄が友人に自宅を(ワンダフルではなく、自宅ということになっていました)騙し取られた時に、「平兄は心の優しい人だから、騙した人が悪いんだ」と言っています。ジーチンもちずちゃんのように「兄貴のバカ!」と罵りません。男性の決定に女性は逆らわないという印象を持ちました。
その後、フランチェスカに惹かれていくルイスは、フランチェスカにプロポーズした後、KKのところへフランチェスカと行って、「元奥様と結婚することを許してください」と伝えていて、KKに「おいおい、今をいつの時代だと思っているんだ? 全てフランチェスカの自由だ。彼女が誰と交際しようと止めないし、彼女を無理に他の男に押しつけるつもりもない」と答えているのも面白かったです。

香港版では、最終回付近で、不動産屋あるあるの、事故物件と知らず阿田が下見に行ってしまい、幽霊に祟られて、動けなくなってしまうというシーンが出て、KKが助けに来てくれるんですが、結構真面目に、ジーチンやルイスがワンダフルで「阿田の日頃の行いが悪いから祟られるんだ」とか言っているし、KKも阿田を助けた後、三日間、熱を出して寝こんでしまって、「幽霊のせいで寝こんだ」と言うし、中国の人って本気で心霊体験を信じてるんだ!?って、オカルトはあまり信じていない私はビックリしました。

香港版の阿田と阿牧は、両方の家族からも結婚を認められて、アジアで同性婚が唯一、認められている台湾で二人暮らしを始めて、ハッピーエンドでした。日本版ではブラックアウトしたキスシーンの続きもしっかり入っていて、ラブラブで、素敵でした。
でも、やっぱり春田と牧は日本版がいいです。一緒に香港版を見ていた娘はずっと「牧くんが遣都くんじゃなくて落ち着かない。春田も田中圭さんがいい」って言っていました。
日本版で香港版みたいな話を見たいなあって思いました。